2018年03月15日
「 『石木ダム』が教えるもの 」 中山康之
先日、長崎から友人が来た。3月とはいえまだ寒い東京の夜。旧交を温めながら酒を酌み交わす。その時、友人から石木ダムの話が出た。石木ダムとは、長崎県と佐世保市が川棚町石木に計画するダムである。
その計画は、遡ること1962年、56年前のもの。長崎県がこの地にダム建設の目的で現地調査を開始してから始まる。そして調査開始10年後の72年に建設省(当時)が計画を認可した。
しかし、水没するダム予定地に住む13世帯61人の住民が猛反対。82年、県が機動隊を動員して強制測量を実施したことで地権者との対立が深刻化し、工事着工に至らず膠着した状態で推移した。
時が過ぎ、2009年。長崎県と佐世保市は再度、「ダム建設は公共性の高い事業である」との認定を求める申請を国土交通省に行った。そして4年後の13年、同省は石木ダムの事業認定を決定した。ダム建設が再開されることになったのだ。
再び住民は立ち上がった。半世紀の時間の中で世代を重ね、住民は「この地に住み続けたい」と闘っている。今も。
ダムの目的は、佐世保市の水の確保と洪水防止。だが、住民側は、ダム建設は自然の生態系を破壊し、人口減少が止まらない中で、水の需要も市の財政も減少する、と主張。特に県が示す水の需要予測は、ダムを造るための過大予測で客観的必然性に乏しく、洪水対策も河道整備が完成すれば対処可能と指摘している。
総事業費は、建設費と関連事業費を合わせて538億円。そのうち、県の負担分を差し引いた353億円がダムの水を利用する佐世保市民の負担となる。
現在、住民側は15年11月に事業認定の取り消しを求める訴えを長崎地裁に起こし、12回の心理を経て、まもなく結審の予定だと聞く。
さて、ダムではないが、鉄道という問題で佐世保市と同じようなことが沼津市でも起きている。計画から30年以上が経つ沼津駅付近鉄道高架事業。行政は、なぜ頑なまでに線路の高架化を推し進めようとしているのか。この問題に強く関心を持ってきた一人として理解ができない。
現在は計画した時代に比べ、交通体系や人口減少など社会構造が大きく変わっている。当初の鉄道高架による便益比も大きくダウンし、建設コストの高騰も考えれば投資効果は見合わない。しかも、この事業は市民の利益よりもJRに有利な形で市民の税金が投入される。いったい市民の利益は何なのか。
石木ダムが教えているのは、「住む人たちの愛着、生活、文化、歴史をよく見る」ことと、事業は「客観的必然性」が必要であるということを示す。
沼津の問題は、この二つの要素を考え、最悪の事態を回避するために、線路を持ち上げるのでなく、駅舎の方を上げる橋上駅化で一刻も早い南北自由通路を造ることが元気な沼津をつくるために一番だと考える。
本紙には、様々な立場の人達の切実な声が寄せられている。為政者は、その声を真摯に受け止めなければいけない。
(沼津朝日新聞コラム 2018年(平成30年)3月14日付)
その計画は、遡ること1962年、56年前のもの。長崎県がこの地にダム建設の目的で現地調査を開始してから始まる。そして調査開始10年後の72年に建設省(当時)が計画を認可した。
しかし、水没するダム予定地に住む13世帯61人の住民が猛反対。82年、県が機動隊を動員して強制測量を実施したことで地権者との対立が深刻化し、工事着工に至らず膠着した状態で推移した。
時が過ぎ、2009年。長崎県と佐世保市は再度、「ダム建設は公共性の高い事業である」との認定を求める申請を国土交通省に行った。そして4年後の13年、同省は石木ダムの事業認定を決定した。ダム建設が再開されることになったのだ。
再び住民は立ち上がった。半世紀の時間の中で世代を重ね、住民は「この地に住み続けたい」と闘っている。今も。
ダムの目的は、佐世保市の水の確保と洪水防止。だが、住民側は、ダム建設は自然の生態系を破壊し、人口減少が止まらない中で、水の需要も市の財政も減少する、と主張。特に県が示す水の需要予測は、ダムを造るための過大予測で客観的必然性に乏しく、洪水対策も河道整備が完成すれば対処可能と指摘している。
総事業費は、建設費と関連事業費を合わせて538億円。そのうち、県の負担分を差し引いた353億円がダムの水を利用する佐世保市民の負担となる。
現在、住民側は15年11月に事業認定の取り消しを求める訴えを長崎地裁に起こし、12回の心理を経て、まもなく結審の予定だと聞く。
さて、ダムではないが、鉄道という問題で佐世保市と同じようなことが沼津市でも起きている。計画から30年以上が経つ沼津駅付近鉄道高架事業。行政は、なぜ頑なまでに線路の高架化を推し進めようとしているのか。この問題に強く関心を持ってきた一人として理解ができない。
現在は計画した時代に比べ、交通体系や人口減少など社会構造が大きく変わっている。当初の鉄道高架による便益比も大きくダウンし、建設コストの高騰も考えれば投資効果は見合わない。しかも、この事業は市民の利益よりもJRに有利な形で市民の税金が投入される。いったい市民の利益は何なのか。
石木ダムが教えているのは、「住む人たちの愛着、生活、文化、歴史をよく見る」ことと、事業は「客観的必然性」が必要であるということを示す。
沼津の問題は、この二つの要素を考え、最悪の事態を回避するために、線路を持ち上げるのでなく、駅舎の方を上げる橋上駅化で一刻も早い南北自由通路を造ることが元気な沼津をつくるために一番だと考える。
本紙には、様々な立場の人達の切実な声が寄せられている。為政者は、その声を真摯に受け止めなければいけない。
(沼津朝日新聞コラム 2018年(平成30年)3月14日付)